チャプター1の一部:Laura Zedmore・ローラ・ゼッドモアー
ポッター・クロフトの不思議な冒険 -後編より-



ローラ・ゼッドモアーは地球時間局のファション・ディレクターと時代考証をする人である。「地球の時間自体をいじること」と「はやりのファッション」に一体どんな関係があるかをとことん考えている人はやっぱり、もう少しSFのアクション・アドベンチャーを見直した方がいいかもしれない。そのようなドラマの中では、将来からタイムスリップした人がそのままのファッションを過去の皆さんに見せたら、たいてい大変な目に合っているのが分かる。ドラマ通りに、宇宙人や魔法使い人に間違えられて殺される可能性がある。それは最悪な展開だ。実際に「間違った」ファションで行ったらただ単に「お前の趣味がわるい!」と言われる人が多いけど、任務で死んだり傷ついたりするのもよろしくない。はっきり言って、「人の死」は時間旅行でごまかして修正できるかもしれない。だが、「とんでもない悪趣味」は下手をすれば永遠に続く恐れがある。とにかく、そんなことを防ぐ為に、ローラのような人物が必要なのである。

彼女にとっては、昔から遠い将来までの服をいじったり、そしてその服を実際に来ている人を見たりすることがこの仕事で一番好きなことだった。人の体形を見て、「どうやって今時のファーストフードにはまっちゃった人に、昔の貧しく飢えているガリガリ体形の人用の服をフィットさせるか」という大いなる課題は彼女のタイムライン(要するに時間の流れ)への義務なのだが、現実的な所でもあった。様々な人間と協力して服を作っても平気だ。しかし、時々人間に拉致された動物は「冗談じゃねえ」という気分だ。ワイルド・ウェストの時代なんかがいい例だ。

「お願い、ペドロ・・・馬から一分だけでも降りてくれない?そのジャケットの裾の高さを計りたいの・・・美しいわ!」と彼女は流ちょうなスペイン語で言い、カウボーイのペドロは言われた通りにした。しかし、馬はご主人様ほど素直ではなかった。ポッター・クロフトがローラの大スタジオに入った時、その馬は満足そうに黄緑の生地の束をクチャクチャと噛んでいた。タイム・トラベルの世界に無理矢理連れてこられて、短時間で色んな事を見てきたポッターにとっても、それはとても予想外だった。そして、馬の向う側から小さい女が現れてポッターの目をひいた。彼女は機能的なタートルネックを着ていて自然な赤い髪がヘッドバンドで後ろに結ばれていた。彼女は大きいテープでカウボーイのジャケットを計ろうとしていたが、ポッターを見て手を止めた。不思議なアーモンドみたいな目にジロジロ見られたポッターは「この女の子、絶対にどこかで会ったことがある!こんなに美しい人は忘れない!」と目まぐるしく記憶を辿った。やっぱりあの人だ!あの時と同じように、心臓が止まった。

★★★


「もしかして…君はファイティング・ドラゴンか?」と聞きながら彼女と握手しようとしたが、考え直した。何故かというと、ケビンとのカンフーマッチの時にケビンが結局ぎりぎりと勝ったが、ファイティング・ドラゴンは最後まで懸命に戦ったからだ。もし相手が本当に彼女なら、気を付けった方がいい。ポッターは手をポケットに戻した。

  「ローラよ。ミス・ローラ・ゼッドモアー。で、あなたは10時間も遅れてきた人ね」と彼女は冷たく言った。「そうよ、カンフーの達人だからお前を殺すことなんか朝飯前」というトーンの声には、ポッターへのマイナスな気持ちが含まれているようだった。たとえ「彼が特別な人だ」という噂を聞いても、彼女はムカついていた。時間にルーズな人間は嫌いだし、やっとケビンを手に入れたところを邪魔されることにも腹が立っていた。

彼女の目は斜めになり、「じゃ、折角来てくれたので、馬の口からその生地を外してくれる?」とふざけて言った。

全くその気はなかったけど、ポッターは「オーケー」としか言えなかった。彼はこれでもかというくらい彼女の事を誉めようと努力した。「ところで、その・・・えっと・・・カウボーイコスチュームはとても素敵だね!ワイルド・ウェストの雰囲気に近いよ、本当に!」ポッターはカウボーイを見た。ペドロは混乱した顔をして笑った。

ローラは怖い顔をしていた。

「馬鹿!それはコスチュームなんかじゃないわよ!ペドロは本物の1850年くらいからのメキシカン・カウボーイーよ!」

ポッターは生地中毒の馬の対応に忙しくて冗談でも言い返せなかった。

「遅刻してゴメンね・・ちょっと、トイレに入った」とダラダラとした声が部屋の向こうから聞こえてきた。それは間違いなくケビンの声だった。

「ケビン!」とローラがまるで愛の神様に会ったかのような嬉しそうな声で叫んだ。

★★★




「遅刻なんて全然構わないわ!あなた様はいつでもWelcomeだもの!」アップしていた髪を急にほどいたから、贅沢な赤い髪が滝のように流れた。ローラが頭をあちこちにふり、それに合わせて髪もサラサラと色気たっぷりに動いた。頭が馬の問題でいっぱいになっていたポッターも、「今まで見てきた髪の中じゃそれが一番素敵だ」と思った。

「どうもで〜す」とケビンが眠そうな声で返事をした。ローラの髪の動きなんかは彼の目に全く入っていなかったけど、カウボーイ については「おお、そのカウボーイ・コスチューム、中々いいじゃん、ローラ!」とコメントした。

「ありがとう、褒めてくれて嬉しいわ!全部私が作ったの」

ローラがつい先ほど言っていたことと全然反対のことを言ったことに、ポッターは少しカチンときた。それでも、いつものように、何となくケビンのことを攻めることが出来なかった。彼には一度、トラブルから救ってもらった恩があったからだ。

「PC、一体何で馬と綱引きのゲームをやってるの?」ケビンはベテラン調教師みたいに手で鼻を撫でながら耳に優しく「よしよし、いい子だ」と言った。馬は落ち着いて生地を放した。ローラはうっとりするような顔をした。

「ローラ、馬をふくからタオルを持ってきてくれよ」

彼女は他人の命令にも関わらず嫌な顔ひとつ見せずに素直にタオルを持ってきた。ケビンはボーっとしているので(正直彼はほとんど注意してないが)、彼女はタオルをポッターの手に押しつけた。そして二人の手が・・・馬のよだれにまみれた手・・・偶然に触れ合った。

ポッターはその瞬間、カンフーの試合で彼女に惚れた時と全く同じ気持ちを感じた。さらにもう一つ別の不思議な気持ちがこみ 上げた。いつだったか、前にもローラと会ったことがあるという感覚。彼がそんなことを考えていると、彼女の目が少しだけ大きく なった。もしかしてローラも同じ気持ちか?それとも彼の馬の唾液まみれの手に対するリアクションか?おそらく2番目の方が 可能性としては高いはずだった。 <本編につづく>







inserted by FC2 system